お詫びに、民宿の小父さんから聞いた話を落とすね。
その村には、決して漁をしてはいけない場所と言うのがあるの。
でもね、小父さんは若い頃、誰もが漁をしない場所なら、きっと獲物がどっさり獲れるはずだと思って、
ある日こっそり、何気ない振りをしてそこへ出かけた。
そこは岩場で、覗き眼鏡で水の中を見てみると、ウニやアワビやサザエなんかがいっぱいいる。
もう嬉しくなって、さっそく獲ろうとしたんだけど、なんだかあっちこっちから視線を感じるんで、
顔を上げ、辺りを見回すけれど、もちろんだあれもいない。
(悪い事しようとしてるからそんな風に思えるんだろう。)
そう思って、もう一度獲ろうとしたんだけど、やっぱり視線を感じる。でも、誰もいない。
(気のせいだよな)と思って、また覗き眼鏡に目をやった時、小父さんは妙な事に気が付いた。
魚が一匹もいない。いくら岩場だって、普通は何か、何匹かはいる。それが一匹もいない。
なんだかそれがすごく不気味に思えて、海が静かに凪いでいるのも余計怖く感じられる。
(帰ろう)そう決心して、覗き眼鏡を引き上げようとした時、そこには、どんよりと濁った目をした
人の顔が、ぺったりとへばりついていた…
「うぎぁああああああ!!!!!」
小父さんは絶叫しながら、必死で船を操り、その場から逃げ出したって。
でもね、それから数日間は、家の中で変な物音がしたり、ガラスや鏡に影が映ったりしたそうよ。