話しをば一つ・・・
 小学校中学年の時のことであんまり詳しい状況を覚えてないのだが、 
 当時、家族と旅行でフェリーに乗ったのよ。 
 夕暮れが迫る時間帯で俺は船の船尾の方で一人で海を見てたんだけど、(家族は 
 部屋みたいなところにいた)気が付くと薄暗くなり始めた海から 
「お~い お~い」
 と俺を呼ぶ声がする。 
 俺はふと呼ばれたほうを見ると、変なオッサンが海から首から上だけ出して 
 俺に一生懸命叫んでる。 しかも「お~い」ばっかりで他には何も言わない。 
 俺は 
 「ミャ~!! ひ、人が溺れてる~よ!」 
 と思い、ダッシュで近くにいた船員さんに人が溺れていることを 
 伝えて一緒にもとの場所に戻ったがその時にはもうすでにその 
 オッサンはいなかった。 
 船員さんが詳しい状況を求めてきたので、ことの次第を詳しく話したら 
 「ああ・・ それは見なかったことにしたほうがいいよ・・ 
 それに気にしなくていいから・・・」 
とだけ言って去って行ってしまった。
 俺は 
 「人が溺れて死にそうになってるのにわけのワカランこと言って 
 見殺しにすんのかよ!!」 
 と憤りながら、もう一回オッサンを見た船尾のところに戻った。 
 「気のせいだったのかしら・・」と思ってたら、 
 「お~い お~い」 
 と俺を呼ぶ声がまたもや薄暗い海から聞こえてきた。 
 俺がもう一度海に目をやるとさっきのオッサンがまたもや海から首上だけ出して 
 俺に向かって呼びかけてる。 
 「ヤパーリ人が溺れてるジャン!!」 
 と思って、再び船員さんに知らせに行こうとした瞬間・・   
 呼びかけてるオッサンの隣にポコっともうひとつ別のオッサンの 
 顔が海から浮かび上がってきた。 
 その時にやっとその異常に気が付いた。 
 船は進んでいるのにそのオッサン達は船と同じ速度で船についてきている 
 じゃない!! 
 新たに浮かんできたオッサンも「お~い お~い」とだけ俺に向かって叫んできた。 
 そして、あれよあれよという間にオッサンは増え、全部で5つもの 
 別々のオッサンが俺に向かって「お~い お~い」の大合唱を始めた 
 のだ。 
 さすがに俺も尋常じゃないものを感じてすぐにその場を立ち去り 
 親に今あったことを夢中で話したのだが、家族だれ一人とて信じて 
 くれなかった・・・ 
 しょせん人生そんなものなのかも。人間が信じられなくなりそうな 
 一瞬でございました。 
オワリ