下北半島まで釣り旅行に行ってきたときの話。
夜釣りで根魚狙いのルアーを片手に漁港へ向かった。
夜光虫が海面から見える。幻想的だが、怖い。
ポイントへ向かう途中、地元のじいさんに話しかけられる。
爺:「兄ちゃん、これから釣りかい?」
私:「ええ、メバルでも釣れればいいかなと思って…」
爺:「悪いことは言わんから、やめときなさい。」
私:「?…なんでですか?」
爺:「今年はトドが来ているからだ。」
じいさんの話は本当で、確かに今年はトドが下北に来ていた。
私:「え?」
爺:「トドは若い男を海に引きずり込むぞ。それでもいいなら、行きな。」
私:「はあ…」
遙か下北まで来ている私は、じいさんの言葉を無視してポイントに向かった。
キャスト。キャスト。キャスト…
…釣れない。
そうこうしているうちに時間は過ぎ、あたりは真っ暗である。
波の音が不気味に響く。気がついたらさっきまでいた夜光虫がいない。
釣れないしなんだか怖いし、帰ろうかと思ったとき、
外海の方から音がすることに気がついた。
「フゴフゴフゴ」
「フゴフゴフゴフゴ」
だんだん音が大きくなってきた。
私は怖くなって逃げた。
帰路、例の老人に会い、ことの顛末を話した。
じいさんは笑いながら言った。
話をまとめると、トドは漁港近くの網にかかった魚を食べに来るの
だが、その際に自分が網に引っかかってしまうらしい。で、何とか
網から逃げようと、網を引き裂く。その昔、引き裂かれようとしてい
る網に絡まった釣り師がいたらしく、その釣り師はそのままトドと
共に海に引きずり込まれた。
この事件から、トドは若い男を海に引きずり込むという話が生まれ
た、と言うことであった。
長々と書いたが、全然怖くないね。