うちらの島から九州の方へ「うたせ」(帆で走る船)で漁に行っていた。
定期的に行く漁であった。途中、瀬戸(狭い海峡)がぎょうさんある。
夜走っていたら、瀬戸のところに釣船がぎょうさんいてた。その釣船をうたせでポンとあてた。
今やったら車で自転車をあてたようなもんや。釣り船に乗っていた人は
海にほうり出され、うたせに助けてくれとすがって来た。
ところがうたせの船頭は、あとで弁償の事などめんどうな事になると思い、
船端を両手でつかんでいたのに鉈でもって指を切ってしまった。
ほんだら海に落ちな、しゃあないわ。
その人はよ。そのうたせの船頭は、そのあと漁をして帰ったが、翌年から、
その定期的な九州の方への漁に行く気がしない。それでその船を、
ぜんねという屋号の今店をしている人に売ってしまった。買うた人はその事を知らず、
翌年、九州のほうへ向けて漁に行った。
みよし(へさき)からずぶ濡れの男が乗って来た。さぶたをポンポーンとみんな開けていき
「船はいっしょでも船頭が違う」と言って、海へポーンと飛び込んだ。つまり亡霊が出た。
うたせには船頭以外に五人程若い衆が乗っているが、前に指を切って海へ人を落した事を
「銭貸せ、貸せへんかったら言うぞ」という具合に、銭を借りていたが、
一杯飲んだ時など、「言うたらあかんで」という風に話し、だんだんうわさになって来ていた。
買ったところも亡霊が出た事などあって、びっくりしてその船をつぶしてしもた。
そしてその舟板を、自分の家の腰板にはった。
ほったら、えらい火事ひいて、その家丸焼けになってしもた。子どもの頃、
その丸焼けになったところを見たが、一銭玉が熱でへんばりつくような、ひどい火事やった。
そうなってきたら噂がブワーッと立って来て、そのあと指を切った船頭は刑事につかまった。
わがとこでそんな人間が漁師やっていたのかと思うと、話するのがやらしいけど。
香川県・K.O./談