その日はかなり冷え込んでた。
朝6時前に着いて早速準備にかかった時、
親友がリールのケースをテトラポッドの隙間へ落っことした。
親友は岸壁からテトラへ降り、水際まで行って
「うわ!海の中に落ちてる」と情けない声を出して腕を水中に突っ込んでた。
俺はもう準備完了してて、親友が戻るのを待つことにした。
けど親友はまだ右腕を水の中に入れたまま動かない。
「なにしてるねん!」って声かけたけど振り向きもしない。
「さっさと取れや~」って言いながら俺は親友の傍まで降りていった。
親友は右腕を水の中に突っ込んだままピクリともしない。
「なにして・・」って言いかけて声が出なくなった。
親友は海中に右腕を肘辺りまで突っ込んでいた。
その手の先のすぐ傍にリールケースがある。
そしてそのケースのすぐ横から顔がブヨブヨにふやけた青緑色の
男だか女だか分からない人間が親友の手首を掴んでた。
瞼の無いマグロみたいな目で水の中から親友を睨んでた。
記憶があるのはここまでで、なぜ全身水浸しになってたのか、
いつ救急車に乗せられてたのか思い出せない。
親友が水死したことも信じられなかった。
親友の葬式にも行かせて貰えなかった。
親友の両親もうちの両親も事故だったとしか言わない
上記の事を話しても誰も信じてくれない。
今年の冬、親友の17回忌の法要がある。